多くの工業ろ過ではステンレスで十分対応できます。しかし、316Lでも腐食が早すぎて実用にならないプロセス環境もあります。たとえば、強い無機酸、高塩化物濃度のブライン、高温海水、一部の医薬プロセスなどです。こうした用途では、チタン焼結粉末フィルターが、ステンレスを短期間で劣化させるような条件でも使用できる多孔質金属ろ過手段になります。

なぜステンレスではなくチタンなのか
チタンを選ぶ理由は主に化学的安定性です。純チタン(Grade 2)は安定した自己修復性の酸化皮膜(TiO2)を形成し、さまざまな腐食性媒体に耐えます。

- 塩酸(HCl): 316Lは室温でもおよそ2%を超える塩酸で急速に孔食が進みます。チタンは希塩酸や中程度濃度への短時間暴露であれば、腐食を大きく抑えられます。
- 硫酸(H2SO4): チタンは、とくに酸化性条件下の希硫酸に耐性があります。高濃度の還元性硫酸では制限がありますが、それでもオーステナイト系ステンレスより有利な場合があります。
- 湿潤塩素・塩化物ブライン: ここはチタンの優位性が明確です。クロルアルカリ設備や高塩化物環境では、300系ステンレスよりも孔食・すきま腐食に強い耐性を示します。
- 海水: チタンは海水中で長期使用実績があり、目立つ腐食なく使われています。316Lは停滞部や低流速部で孔食を起こしやすくなります。
- 生体適合性: チタンは本質的に生体適合性が高く、細胞毒性が低いため、金属イオン溶出を抑えたい医薬バイオプロセスで関心を持たれます。
重量面でも利点があります。チタンの密度は4.51 g/cm3で、316Lの8.0 g/cm3に対して約44%軽量です。大径ハウジングや複数本エレメントを使う設備では、配管や支持構造への負荷低減にもつながります。
主要仕様
材質: 純チタン Grade 2(ASTM B348 / ASTM B381)
孔径範囲: 0.22 – 100 µm
最高使用温度: 400°C
最大差圧: 約0.6 MPa(壁厚による)
気孔率: 30 – 45%
標準外径: 14 – 200 mm
長さ: 100 – 1200 mm
壁厚: 2~10 mm
製造上のポイント
チタン焼結粉末エレメントは、ステンレスと同様に粉末圧縮後の真空焼結で製造されます。ただし、チタンは焼結時の雰囲気管理がより厳格に求められます。チタンは約500°Cを超えると酸素や窒素と反応しやすくなるため、脆化を防ぐには高真空(通常10-3 Pa以下)または高純度アルゴン雰囲気が必要です。純チタンの焼結温度は1000-1200°Cで、十分な冶金結合を得るため数時間保持します。

この雰囲気管理の厳しさが、316Lよりコストが高くなる理由のひとつです。真空炉サイクルが長くなり、粉末原料と炉内環境の純度要求も高くなります。
用途例
クロルアルカリ・ブラインろ過
クロルアルカリ工場では、食塩水(NaCl溶液)を電気分解して塩素、苛性ソーダ、水素を製造します。ブライン中の微粒子はイオン交換膜を傷つけるため、前処理ろ過が重要です。1-10 µmのチタン焼結粉末フィルターは、飽和塩化物環境でも腐食しにくく、この用途に適しています。同条件ではステンレスが孔食を起こし、鉄やクロムイオンでブラインを汚染するおそれがあります。

オフショア・海水系設備
海上プラットフォームの海水注入設備、船舶バラスト水処理、淡水化前処理では、連続的な塩水暴露に耐えるフィルターが必要です。チタン焼結エレメントは、停滞部や汚れがたまりやすい部位を含めて海水用途で長い実績があります。多くのシステムでは、同じ海水で逆洗してもステンレスのような腐食懸念を抑えやすい点も利点です。
医薬バイオプロセス
バイオリアクターのスパージング、無菌ガスろ過、下流清澄化などでは、耐食余裕や低金属溶出が重視される場合に、ステンレスよりチタンが指定されることがあります。チタンの耐食性と生体適合性は魅力ですが、実際の適合性はプロセス薬液、洗浄条件、バリデーション要件によって判断する必要があります。
半導体ウェットプロセス
半導体工場では、HF、HCl、H2SO4、H2O2の混酸など、非常に攻撃性の高い薬液を用います。こうした薬液をろ過するには、腐食せず、超純液中へ粒子を放出しない材料が必要です。チタン焼結フィルターは、多くの薬液系でステンレスが使えない条件に対応できます。孔径は通常0.22-1 µmで、サブミクロン粒子の除去に使われます。
コスト面の考え方
チタン焼結粉末エレメントの価格は、一般に同サイズの316L品より高くなります。ただし、差額はサイズ、壁厚、粉末グレード、発注数量で大きく変わります。案件によっては、耐食寿命の差で初期差額を短期間で回収できることもあります。
寿命を含めて考えると、チタンの優位はさらに明確になります。316Lが6-12か月ごとに交換になる用途で、チタンが5年以上使えるなら、総保有コストは大きく下がる可能性があります。
結論として、塩化物、強無機酸、海水、またはステンレスで腐食トラブル実績のある流体を扱うなら、チタンはより耐久性の高い選択肢であり、初期価格が高くてもライフサイクルコストで有利になることがあります。
詳しい寸法や仕様は、チタン焼結粉末フィルター製品ページをご覧ください。プレートやディスク形状の多孔質チタンが必要な場合は、多孔質部品ページも参照できます。